Busan nikki 1 (2008～2013)

つづき

「生命の航海　6･25戦争写真展」 で展示されているパネルの中には、商船 SS Meredith Victory（メレディス･ビクトリー）号に関連するものもある。興南（フンナム）撤収時の実話だ。


朝鮮戦争中マッカーサーの北進で米軍は、北朝鮮と中国の国境を流れる압록강（鴨緑江）に到達。しかし中国共産軍の参戦により、マッカーサー司令官は흥남（興南）撤収を余儀なくされる。

撤収に際し、連合軍兵士105,000人たちを緊急救助しどうやって南朝鮮に輸送するかが問題だった。避難してきた10万人以上の北朝鮮の人民が南朝鮮を目指し、興南の波止場に押し寄せていたからだ。

その時一肌脱いだのが、フィラデルフィア出身の貨物船船長ラルー船長。彼はムーア・マコルミク商船会社の社員だったが、軍事航海運送局との契約で、所属貨物船メレディス・ヴィクトリー号を指揮して釜山から揮発油燃料300tを積んで興南に入港したところだった。しかし退却してきた米軍にもはや燃料は不必要という状況。

ラルー船長が指揮していた貨物船は乗組員47人と乗客12人、合計59人の運送能力しかなかった。貨物室に避難民を乗せると言ってもわずか1000人余り。しかしラルー船長は避難民を乗せられるだけ乗せ、南を目指すことにした。

12月22日の21時30分頃、避難民たちが貨物船に乗り始めた。24時頃には5000人が乗り込んだ。それ以上の余地はなかった。しかし波止場にはまだ北朝鮮の民衆たちが残されていた。ラルー船長の判断により5つの輸送倉と全ての甲板を含めて、人が入ることができる空間にはすべて乗せた。

翌朝11時10分、乗船が終わった。乗船した人員は14,000人。乗務補助員定員の230倍を越えていた。

そうしてメレディス・ビクトリー号は興南から釜山までの航路を、いつ触雷して爆発するかもしれない300tの揮発油を満載したまま、水雷が漂う日本海を南下した。乗船した人々は興南から釜山までの3日間身動きもできず、食糧や飲み水もなく、医師や通訳もなく、トイレにも行けない状態で過ごした。到着した釜山には上陸できず、さらに80キロ離れた巨済島まで航海。巨済島で大型揚陸艦艇によって下船させたそうだ。

後日船員の一人が語っている、「あの時、朝鮮の人々はね、ストイックであるにしろ、どうやってあの酷寒の航路を身動きもせず、完全に沈黙を守って立ったまま耐え忍んでくれたか、僕は信じられないよ。僕たち乗組員はそれこそ感動したものだった。」

こうしてアメリカ商船メレディス・ビクトリー号は、北朝鮮の避難民14,000人を無事に巨済島（コジェド）に避難させた。最悪の条件の中、1人の人命被害もなく、また5人の妊婦が新しい命を誕生させたというのはまさに奇跡だった。

後日、アイゼンハワー政権が、「人類の歴史上最も偉大な海上救助作戦だ」 と賞賛したのは、決して誇張ではなかった。2003年、韓国でも出刊された 『기적의 배（奇跡の船）』（ビル・ギルバート著、アン・ジェチョル訳）には、当時の緊迫した状況がいきいきと描かれている。メレディス・ビクトリー号は 「最も多くの人命を救助した船」 として、2004年ギネスブックに認定された。


写真は12月26日朝、巨済島でメレディス・ビクトリー号を下船する北朝鮮の避難民たち（▼）。



「最も多くの人命を救助した船」 のギネスレコード（▼）。



このギネスレコードを見て、こういうものこそ本当に価値のある記録だとつくづく感じた。

韓国はとかく 「世界一」 とか 「韓国一」 とか、一番であることを好む傾向が強い。釜山だけでも、「世界一大きい百貨店」（新世界百貨店センタムシティ店）、「世界一大きい平面噴水」（多大浦噴水）、「世界一大きい室内映像音楽噴水」（ロッテ百貨店光復店アクアティック・ショー）と、3つの 「世界一」 がある。

それはそれで構わない。「世界一」 で集客すれば、ひいては地域の経済活性化にも一役買うことになるのだろうから。しかし、“結果として世界一になった” のではなく、“世界一になるために何かを作った” という傾向があるように思える最近の韓国（韓国だけに限ったことではないが）。これからは本当に価値のある 「世界一」 を競う社会になっていきますようにと願う。