2013年08月13日

伏日のポシンタン

日本で土用の丑の日にウナギを食べるように、韓国では삼복(三伏=サンボク)(または복날/伏日/ポンナル)の日にサムゲタン(参鶏湯)やポシンタン(補身湯)を食べる習慣がある。夏の最も暑い時期を、滋養強壮の料理を食べて乗り切ろうというものだ。

三伏とは초복(初伏=チョボク)・중복(中伏=チュンボク)・말복(末伏=マルボク)の3日の伏日を指す。初伏、中伏、末伏はそれぞれ 「夏至後の第3庚の日」、「夏至後の第4庚の日」、「立秋後最初の庚の日」 なので、カレンダー上での日にちは毎年異なる。

今年は初伏が7月13日、中伏が7月23日、末伏が8月12日だ。

少し前、職場の上司や同僚と、初伏だしポシンタンでも食べに行きましょうということになった。向かったのは職場の近くにあるポシンタン・サムゲタン専門店で、私もこれまで何度か行ったことがある장수영양탕(チャンスヨンヤンタン)という店だ。


その日は初伏の翌々日だったので、店はそれほど混んでいないかと思いきや、満席だった。席が空くまで少し待つか、店先のテーブルに座るかということだったので、風に当たりながら食べるのもいいかと店先でいただくことにした(▼)。


注文したのは수육백반(スユクペッパン・13,000w)。まず、味噌や香辛料などが運ばれてくる。左奥の青いザルに入っているのは방아잎(パンアイッ)。カワミドリという植物の葉を荒く刻んだものだ(▼)。배초향(排草香)とも呼ばれるそうで、その漢字の通り独特の強い香りを放つ葉だ。そのまま葉の匂いをかいでもあまり分からないが、口に入れて噛むと強い香りが口いっぱいに広がる。


カワミドリの葉は、ショウガのすりおろしやすったエゴマなどと共に味噌(写真手前▲)に加える。茹で肉をつけて食べるためのソースだ。臭みを消すため、さまざまな食材をミックスするわけだ。他の皿は、ニラの和えもの、白菜キムチ、ヨルム(大根の若菜)キムチ、カクトゥギなど。

続いて、犬肉を煮込んだスープが出てくる。これはいわば前菜的なスープ。犬肉は入っていない。あっさりしていて、知らずに飲んだら何のスープか分からないだろう。このスープと一緒に、同じく前菜的な犬肉の茹でたものが少量出てきた。皮やリブの部分だ。


それらをいただいていると、メインの茹で肉が出てきた(▼)。


これを先ほど準備しておいたタレ(▼)と一緒に食べる。適度についている脂はとろけるような食感。肉そのものは豚肉のようでもあり牛肉のようでもあり。「肉」 というだけで、特に違和感は感じない。臭みも感じられず、おいしい。


そしてこちらがもう1つのメイン、ポシンタン(補身湯▼)。ヨンヤンタン(栄養湯)とも言う。もとは개장국(ケジャンクッ)と呼ばれていた。1988年のソウルオリンピックの際、欧米諸国に対するイメージダウンを避けるため、1980年代当時の政府は犬の食用を禁止。犬肉の料理を出す店に対する取り締まり政策を強いていた。

それにともない、개(ケ=犬)という文字が入っているケジャンクッという名前の代わりにと生まれたのがポシンタン(補身湯)。それを、「何となく栄養のありそうなスープ」 というさらに漠然としたイメージにした名前がヨンヤンタン(栄養湯)なのだそうだ。


このスープには犬肉や野菜が入っている。表面に浮かんでいるのはエゴマの油。以前、他の食堂で食べたポシンタンはけっこう辛かったが、この店のはほとんど辛くない。好みでショウガやすったエゴマ、カワミドリを加えていただく。私は加えずにそのままいただいたが、充分おいしかった。

私がポシンタンをいただくのはこれで4回目。犬肉を食べるということに対しては、韓国人の中でも抵抗を感じる人もけっこういる。上司の1人も、食べたことがないし食べたくないとおっしゃっていたので、あえてその上司が他の人との昼食の約束がある日を選び、その上司以外のメンバーで食べにきたのだ。

理由はやはりかわいそうだからというのが多いようだ。確かに犬は昔から人間とのつながりも深く、日本でも現代は食用として認識されていないので、犬肉料理と聞くとぎょっとする人も多いだろう。

私は個人的にはこれも韓国の食文化の1つだと思う。昔は食べるものがなくてその辺の犬をつかまえて・・・ということもあっただろうが、今は食用犬として飼育したものを使っている。その点では、豚や牛や鶏と同じではないかなと。あくまでも個人的な考えだが。

장수영양탕(チャンスヨンヤンタン)
釜山市東区水晶2洞190-1
(051) 467-4404
営業時間:9~22時
  


Posted by dilbelau at 08:24Comments(2)犬肉料理

2012年06月28日

夏のスタミナ食 10

つづき

どこかで昼食を食べようと、機張(キジャン)市場近くでバスを降りる。冬なら間違いなくカニを食べるところだが、6月なのでカニという気分でもない。その辺りを適当に歩いていて、「사철탕(サチョルタン)」「삼계탕(サムゲタン)」 と書いてある店が目に入った。

「사철탕(サチョルタン)」 という名前は聞いたことがあるが、何のことだったかなと思いつつ店に入る。店内のメニューを見て思い出した。一般的には 「영양탕(ヨンヤンタン=栄養湯)」、「보신탕(ポシンタン=補身湯)」 と呼ばれる犬肉のスープのことだった。値段は8,000w。

メニューはヨンヤンタンの他に、一般的なヨンヤンタンより長く煮込んだ濃厚なスープ 「진국(チングッ)」(10,000w)や、茹でた犬肉とご飯などの定食 「수백(スベッ)」(14,000w)、犬肉を使ったすき焼き風煮 「특미전골(特味チョンゴル)」(15,000w)などの犬肉料理と、「삼계탕(サムゲタン=参鶏湯)」(10,000w)などがある。犬肉料理の店には必ずと言っていいほどメニューにサムゲタンも並ぶ。

店内にはおじさんを中心に客が数組。焼酎を飲みながらヨンヤンタンを食べている人が多い。店は掃除が行き届いており清潔な雰囲気。店のおばさんたちも愛想がよく気持ちのよい対応だ。私たちはヨンヤンタン(8,000w)を注文。

ヨンヤンタンは滋養強壮の効果があるとのことで、韓国ではサムゲタンと並んで、夏のスタミナ食として食べられることが多い。夏の間でも、特に복날(伏日=ポンナル)に食べる習慣がある。伏日は초복(初伏=チョボク)、중복(中伏=チュンボク)、말복(末伏=マルボク)の3日間ある。初伏は夏至後の第3庚の日なので、今年は7月18日。中伏は夏至後の第4庚の日なので、今年は7月28日。そして末伏は立秋後最初の庚の日なので、今年は8月7日。

犬肉スープのもとの名前は개장국(ケジャンクッ)で、ポシンタン(補身湯)と呼ばれることが多かった。しかしオリンピックのソウル(88オリンピック)への誘致にともない、欧米諸国に対するイメージダウンを避けるため、1980年代当時の政府は犬の食用を禁止。犬肉の料理を出す店に対する取り締まり政策を強いていた。

その取り締まりを避けるため、ポシンタンの代わりに作られた名前が영양탕(ヨンヤンタン=栄養湯)や사철탕(サチョルタン=四チョル湯)。사철탕(サチョルタン)は、夏によく食べられる犬肉料理を夏に限らず1年中(サチョル)食べてほしいという意味をこめて犬肉料理店の人が作った名前だとか。また犬の鳴き声 「モンモン(わんわん)」 から、멍멍탕(モンモンタン)と呼ばれることもある。

私がポシンタンを食べるのは確かこれが3度目。昨年、職場の上司らと食べにいったのが私の犬肉デビューだった。どんなものかと半ば恐る恐るだったが、食べてみると普段口にする牛肉や豚肉と大差ないような感じでおいしかった。その店の調理法がよかったのか、特にクセや臭いも感じなかった。

この店のはどんなかなと思っていると、ほどなくポシンタン(サチョルタン)が運ばれてきた。生臭さやクセを消すため、スープにはエゴマ油も入れてピリ辛に仕上げてある。生ショウガの千切りやエゴマのパウダー、배초향(ペチョヒャン)という葉を刻んだものをスープに加えていただく。ペチョヤンは日本語では 「カワミドリ」 というようだ。一見エゴマの葉に似ているが、エゴマの葉より香りも味も強い。



肉は適度に脂身もついていておいしい。味も弾力もやはり牛肉や豚肉とさほど変わらないと思う。言われなければこれが犬肉だとは気がつかないだろう。



付け合わせ(▼)。左下がカワミドリの葉を刻んだもの、その上がショウガの千切り。他は、ナスの胡麻和えやカクトゥギ、キムチなど一般的なおかず。





スープが熱々で辛いせいか、食べている途中から身体がほてってくる感じがした。いかにも夏の滋養強壮食だ。

私たちが食べている間にもどんどん客が入ってきていた。ほとんどが男性で中には夫婦らしき客もいたが、女性はサムゲタンを食べていた。ポシンタンはあまり女性は食べないものなのだろうか。

店のおばさんは私たちが外国人と知り、食べ方などで困ったことがないか気にかけてくれているようで、時々ちらっと目を配ってくれていた。会計のとき、おいしかったですと言うと、それはよかったですと笑顔で見送ってくれた。

88オリンピック当時、店が取締りを受けていたこともあり、犬肉料理は何となく他の韓国料理のようには大きな声でPRしにくいような位置づけにあるように感じる。実際、当時の取締りの名残だろうか、犬肉料理店は大通りに面した目立つところではなく、少し路地に入ったような場所にあることが多い。

また犬はペットとして飼う人も多く、牛・豚・鶏などとは違って食用としてとらえていない人も多い。食糧が乏しかった昔は野良犬を捕まえてきて・・・ということもあったようだが、今は食用として飼育している犬を使っており、これも立派な韓国の食文化の1つだと私は思う。



초원사철탕(チョウォン サチョルタン)
釜山市機張郡機張邑東部里278-11
(051) 722-4348
  


Posted by dilbelau at 08:59Comments(0)犬肉料理

2011年06月26日

ポシンタン

先日、職場の上司や同僚たちと生まれて初めて 「보신탕(補身湯=ポシンタン)」 を食べに行くことになった。いわゆる犬肉のスープだ。

参鶏湯(サムゲタン)を出す店の中には、メニューにポシンタンも並んでいる店も少なくないし、他の客が食べているのを目にしたことも何度かある。しかし自分で食べてみるのは初めてだ。

どうしても食べてみたいと思っていたわけではなかった。しかしせっかく韓国に住んでいるのだから一度ぐらいは・・・と漠然と思っていたところにお誘いがあったので、いただいてみることにしたのだ。

もちろん愛玩犬ではなく、食用の犬を使った料理だとは聞いていても、やはり多少の抵抗を感じなくはない。牛や豚や鶏は普段何の抵抗もなく、おいしいおいしいと食べているのに。犬はペットや番犬として人間と深いつながりがある動物だというイメージが強く、食用の動物として見ていないからだろう。

犬肉の味や食感は牛肉・豚肉・鶏肉、どれに近いかと尋ねると、上司の一人が 「人肉に一番近いと言われてるそうだよ。もちろん(人肉は)食べたことないけどね。」(当たり前です。)筋肉と脂肪の比率など肉質の成分が似ているということらしい。

ポシンタンは滋養強壮の効果があるとのことで、韓国ではサムゲタンと並んで、夏のスタミナ食として食べられることが多い。夏の間でも、特に복날(伏日=ポンナル)に食べる習慣がある。伏日は초복(初伏=チョボク)、중복(中伏=チュンボク)、말복(末伏=マルボク)の3日間ある。初伏は夏至後の第3庚の日なので、今年は7月14日。中伏は夏至後の第4庚の日なので、今年は7月24日。そして末伏は立秋後最初の庚の日なので、今年は8月13日。

ポシンタンのもとの名前は개장국(ケジャンクッ)。しかしオリンピックのソウル(88オリンピック)への誘致にともない、欧米諸国に対するイメージダウンを避けるため、1980年代当時の政府は犬の食用を禁止。犬肉の料理を出す店に対する取り締まり政策を強いていた。その取り締まりを避けるため、ポシンタンという名前の代わりに作られた名前が영양탕(ヨンヤンタン=栄養湯)や사철탕(サチョルタン=四チョル湯)。犬の鳴き声 「モンモン(わんわん)」 から、멍멍탕(モンモンタン)と呼ばれることもある。

さて、韓国生活4年目にして初めてのポシンタン。職場の上司たちと、新聞社の近くにあるポシンタン・サムゲタンの店へ。料理は上司があらかじめ予約注文してくれていた。こちらは犬のレバーなど(▼)。牛のレバーと変わらない。くさみもなく、ポソポソしていず適度にしっとりしていて美味。



付け合せは、カクトゥギや生タマネギ・青唐辛子・ピクルス・ニラの和え物など(▼)。



そしてスープ(▼)。犬肉を煮込んで作ったスープだが、香辛料の香りがきいていておいしい。言われなければこれが犬肉のスープだとは分からない。このスープにはニラが少し浮かんでいるだけで、具は入っていない。



そしていよいよ木の板にのせられて、犬肉を茹でたもの(수육=スユク)がドーンと出てきた(▼)。肉ばかりこうやって出されると迫力がある。適度な厚さにスライスされているが、それぞれ赤身の部分にゼラチン質がついている。



肉をつけて食べるソースはこちら(▼)。唐辛子ソースにカワミドりの葉を荒く刻んだもの、おろしショウガ、すったエゴマを加えてよく混ぜる。カワミドリの葉は香りが強いので味のアクセントにもなり、臭みを消す役割もする。



いよいよ生まれて初めての犬肉。どんな味だろうかとおそるおそる口に入れてみる。一切れが大きめなので口の中がいっぱいに。・・・・・・予想以上においしい。食感も味も牛肉や豚肉とさほど大差ないような印象だ(鶏肉とは全く違うが)。歯ごたえはけっこうしっかりしている。

ゼラチン質の部分は食感・味ともに好みが分かれるだろうが、赤身の部分は正体を知らずに食べたら犬肉だとは気がつかない人もいるのではないだろうか。

「ポシンタンは焼酎と一緒に食べるのが決まりなんですよ」 と上司。もちろん決まりではないが、それくらい相性がいいということだ。サムゲタンに朝鮮人参酒がつきもののように、ポシンタンには焼酎ということらしい。

私がスープを飲み終えたのを見た上司が 「気に入ったのならおかわりもできますよ」 と。おいしかったのでお願いしようかと思っていたら、先ほどのとは違うスープとご飯が運ばれてきた。

こちらは犬肉と野菜入り(▼)。先ほどのスープはいわば前菜的なもので、こちらが 「ヨンヤンタン(ポシンタン)」 だ。先ほどのスープにエゴマの油が加えられており、しっかりした味だ。これまたおいしい。





おいしい、おいしいといただいていると、すっかりおなかいっぱいに。そりゃそうだ。スープ2杯に肉もたっぷりいただいているのだから。

ちなみにこの日は上司がご馳走してくださったが、メニューにはヨンヤンタン(8,000w)、ヨンヤンタン(特)(10,000w)、スユク(茹でた肉=大55,000w、中40,000w、小30,000w)、スユク定食(12,000w)などとある。ちなみにサムゲタンは10,000w。

昔は食べるものがなくて犬肉を食べていたこともあったが、今は飼育場で飼育している食用の犬を使っているのだそう。それでもやはり犬肉を食べる習慣がない日本人にとっては、「犬肉を食べる」 ことに対する抵抗がある人も多いだろう。韓国でも若い世代の中には抵抗のある人が少なくないとも聞く。

意見が種々分かれる料理だとは思うが、韓国の食文化の一つであることには違いない。



장수영양탕(チャンスヨンヤンタン)
釜山市東区水晶2洞190-1
(051) 467-4404
営業時間:9~22時
  


Posted by dilbelau at 09:32Comments(2)犬肉料理