2010年04月26日

'10.4.26(月)写真には思想が必要だ

つづき

先生が入れてくださったおいしいジュースをいただきながら、いろいろとお話しをうかがう。

昔、美術の勉強をするため日本に渡った崔先生は、東京で昼間は働きながら夜は美術学院に通われる。そんなとき偶然出会った、ある外国の写真作家の一冊の写真集。その写真集に強い感銘を受け、カメラを買い独学で写真を学び始めたそうだ。先生の写真の道の始まりだ。以来、写真を撮り続けて50年という崔先生。

先生の出版された主な写真集は現在14集。タイトルはどれも 『HUMAN』。
今回私たちにプレゼントしてくださった写真集2冊は、『HUMAN』 の第9集と第14集(最新)。第14集の作者紹介の部分によると、
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1928年生まれの최민식(崔敏植)さんは、1957年日本・東京中央美術学院を卒業し、この頃から独学で写真を研究しながら人間を素材にした写真を撮り始めた。1962年、台湾国際写真展で初めて2点が入選した後、アメリカ・ドイツ・フランス・イギリスなど、20余カ国の様々な写真公募展で220展が入賞・入選するなど、彼の写真は世界的な共感を呼び起こした。

1968年に写真集 『HUMAN』 第1集を出した後、2004年には 『HUMAN』 第12集まで出刊し、情熱的に写真創作に没頭し、『リアリズム写真の思想』、『作品写真研究』、『写真とは何か』 などの著書を発行した。

1970年よりアメリカ・ドイツ・フランス・日本など7カ国で15回の個人招待展を開いた。釜山市文化賞(1967)、韓国写真文化賞(1974)、現代写真文化賞(1985)、大韓写真文化賞(1995)、釜山写真文化賞(2001)(他にも多数)などを受賞し、大韓民国文化勲章(2000)を受章した。現在、アメリカ写真家協会、アメリカ写真協会、韓国文人協会の会員かつ、韓国写真家協会諮問委員でもあり、活発な写真活動とともに釜山大学と仁済大学などに出講している。

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そのほか、雑誌や新聞に寄稿する原稿も書かれているとのこと。パソコンは知人にすすめられて習いに行ってみたがどうも性に合わず、原稿も全て手書きなのだそう。大変読みやすい美しい文字だった。

このように広く活動されている崔先生。写真集のタイトルがほとんど全て 『HUMAN』 であるのは、「『人間』 というタイトルならね、どの国の人を撮っても大丈夫でしょ。だから。」 だそうだ。韓国内の写真だけでなく、インド・ネパール・マレーシア・中国・エジプトなど、今までに世界40カ国ほどを訪れて写真を撮ってこられたそうだ。

「人間」 の中でも特に貧しい人々、苦しみの中にある人々を撮ることが多いという先生。その理由を尋ねてみると 「自分が昔 貧しかったからね。だから撮るのも貧しい人たちばかり」。

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私の作品は、人間が中心だ。人間が作品を徹底して支配している。人間の現存を放棄することができなかったのだ。私は人間を描写することでだけ、私の考えを伝えることができたのだ。私の作品は誠心に由来する威力を持ち、そこには芸術と命が出会い一つになっている。(『HUMAN』 第14集 前書きより)

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「私はね、きれいな風景とかそういうのは撮らないの。人間、それも貧しい人たちだけ。あと、でも女性はね(笑)、きれいな女性は撮ってるけど」

写真集のページをめくりながら、それぞれの写真を撮った当時のことなどをいろいろ説明してくださる。いつも自然な様子を撮ろうとするため、時には、断りもなく写真を撮られたことに対し、怒り出す人もいたそうだ。

「写真を撮るにはね、思想がないとダメなの。写真だけ勉強してもダメなの。音楽とか哲学とか文学とか映画とか、どれもいい写真を撮るには必要なもの。ただ写真だけ撮ってもダメなの。」

そうおっしゃった先生の言葉は、とても印象的だった。
写真を撮るための技術はいくらでも学べるが、学校などでは学ぶことのできない撮る人の人格や思想が、撮った写真にも反映されるということだろうか。いろいろなものを学び、芸術に触れ、感性を磨き、自分の思想を築き上げてこそ切り取ることができる、ファインダー越しの世界、人物。

本棚にある哲学や音楽・文学などの多くの書籍を見ると、先生のそういうお考えがとても説得力を持ってこちらに迫ってくる。深い。

10.4.26(月)写真には思想が必要だ

愛用のカメラとともに先生の写真を撮らせてもらいたいとお願いすると、快く応じてくださった。当初はライカのカメラを使っていたそうだが、最近はフィルムカメラ・デジタルカメラとも Nikon のものを愛用していらっしゃるのだそうだ。この後、このカメラを使って記念にと、私たち2人の写真を撮ってくださった。

こちらは、20年前の崔先生。

10.4.26(月)写真には思想が必要だ

穏やかで柔らかい物腰ながらも、強い信念と思想を内に秘めていらっしゃる崔敏植さん。納得したものを生み出すためには努力を惜しまないそのお姿からは、静かな迫力と情熱が感じられた。

「また、たびたび遊びにいらっしゃい」 と、笑顔で見送ってくださった崔さん。
いただいた2冊の写真集とともに崔敏植先生の存在は、韓国での貴重な出会いの一つとして、この日私たちの心に深く刻まれた。先生、ありがとうございました。


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この記事へのコメント
> 「写真を撮るにはね、思想がないとダメなの。写真だけ勉強してもダメなの。音楽とか哲学とか文学とか映画とか、どれもいい写真を撮るには必要なもの。ただ写真だけ撮ってもダメなの。」

物凄くわかるような気がします。思想が、視野が広がることによって、撮りたい写真も変わってきますしね。
Posted by YOSHI at 2010年04月28日 07:03
YOSHI さま

YOSHIさんなら、そうおっしゃるような気がしていました
崔先生のそのお言葉通り、どの写真からもこちらに強く伝わってくるものがあります。
Posted by dilbelaudilbelau at 2010年04月28日 09:24
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