2012年11月21日

噂の元祖ナクチポックム

先日、夫と東莱(トンネ)の虚心庁(ホシムチョン)へ行くついでに、薬膳韓定食の店 「정림(チョンニム=貞林)」 で昼食を食べようと店を訪ねた。以前から話には聞いていた店だが、実際に行くのは初めて。入り口の門をくぐると、よく手入れされた伝統的な雰囲気の庭が迎えてくれる。期待して店内に入ったが、満席のため1時間ほど待たねばならないという。

人数が少ない(2人)ので予約なしでも入れるだろうと思ったのが間違いだった。

また今度、予約をして出直すことにして、この日は店を後にした。さて、じゃあどこで食べようかと付近を少し歩く。この辺りには飲食店がたくさん立ち並んでいるのでよりどりみどりだ。ふと、ナクチポックム(タコのピリ辛煮)の店がいくつか並ぶ通りにさしかかって思い出した。数年前、友人とこの付近を歩いているとき、このナクチポックム通りの中にとてもおいしい店があるのよと、教えてくれたのだった。

通りには4~5軒ほどナクチポックムの店が並んでいたが、中でもダントツでたくさんの客が入っている店があったのでそこに入ることにした。店名は 「소문난 원조 조방낙지」(噂の元祖チョバンナクチ)。店の看板には韓国の放送局の名前と並んで、NHKやTBSでも紹介されたと書かれている。

조방(チョバン)とは조선방식(チョソンバンシッ=朝鮮紡績)の略で、もとは釜山市東区凡一洞(ポミルドン)の名物料理。「朝鮮紡績株式会社」 という会社が近くにあったことから、その地域で作られるナクチポックムのことを特に 「チョバン(朝紡)ナクチ」 と呼ぶようになった。

では、なぜポミルドンの名物料理がトンネに??

かつて 「ソウルの武橋洞(ムギョドン)と言えばナクチ・ナクチポックム」 と言われたように、ポミルドンの 「チョバンナクチ」 もそのおいしさから非常に有名になった。その人気ぶりにあやかって 「チョバン」 という名を店名に使う店も出始め、それをめぐって裁判まで起こされたという。しかし、「チョバン」 は 「チョソンバンシッ」 の単なる略称なので、誰でも使ってよいという判決が出た。このことでより一層 「チョバンナクチ」 の名が全国的に知れ渡ったというエピソードもあるそうだ。そういう経緯もあり、ポミルドン以外の場所でも 「チョバンナクチ」 という店名を使う店は少なくないのだそう。

さて、タコといえば韓国では 「よろよろとバテた牛にもタコ1匹を投げ与えれば、ゆうに1週間はよく働く」 という表現があるように、昔からスタミナ食として人気があった。「펄 속에서 건져 낸 인삼」(干潟の中の高麗人参)という異名を持つほど、その栄養価は高く評価されてきた。闘牛の試合の前に、飼い主が自分の牛に生タコを食べさせることもあるほどだそう。

そんなタコをおいしく食べられる料理の1つが 「ナクチポックム」。直訳すると 「タコ炒め」 だが、炒めるというよりは浅い鍋にダシを張り、そこにタコや野菜、ヤンニョムなどを入れて煮ながら食べる料理だ。

メニューはナクチポックム(7,000w)の他に、낙새=ナクセ(タコ・エビ)や낙곱=ナッコプ(タコ・コプチャン=牛ホルモン)、낙곱새=ナッコプセ(タコ・コプチャン・エビ)(いずれも7,000w、ご飯含む)もある。私たちはナクチポックムを注文。

店内は大勢の客でにぎわい後から後から客が入ってきて、人気の店だということが分かる。店のおばさんたちは皆てきぱきと立ち働いている。40~60代くらいのアジュンマだろうか、皆さん 「超」 がつくほどのベテラン主婦といった雰囲気だ。バタバタすることなく、短い動線で効率的に働いている。チームワーク抜群だ。

まず、材料を入れた鍋が運ばれてきて、テーブルの上のコンロで火にかけられる。注文時に 「辛さ控えめで」 とお願いしたら、ヤンニョムをスプーンですくって減らしてくれた形跡が見られた。具はたっぷりのタコ、ネギ、タンミョン、ニンニク、ヤンニョムなど。写真では見えないが、ダシも入っている。

噂の元祖ナクチポックム

ふたをして加熱。頃合を見計らって、店員さんが鍋の様子を見にきてくれる。ぐつぐつ煮えたら全体をよく混ぜてもう少し煮る。煮上がるまで、付け合せのおかずをいただきながら待つ。キムチやナムルなど。銀の器に入っているのは동치미(トンチミ)。口の中がさっぱりする。

噂の元祖ナクチポックム

やがて食べごろになったナクチポックム(▼)。

噂の元祖ナクチポックム

このまま食べても、ご飯に乗せて食べてもおいしい。ヤンニョムをすくって取ってくれたおかげか、色は赤めだが全く辛くない。むしろ甘みさえ感じる。これなら辛さ控えめにとお願いしなくても、それほど辛くないかもしれない。これまで他店で食べたナクチポックムはどれもけっこうパンチのきいた辛さがあったが、こんなナクチポックムもあるのかと目からうろこが落ちるようだった。

私たちのテーブルを担当してくれていた店員さんが、隣のテーブルの片づけをしていたので 「おいしいです」 と言うと、「そうでしょ~、おいしいでしょ~」 とにっこり笑顔。この店はもう長いのかと尋ねると、「30年になるわね。近くにナクチポックムの店は何軒かあるけど、ここが一番おいしいのよ」 と。その後も愛想よく、何かと気を配ってくれてくれた。

そしてお楽しみは締めのポックムパッ。そのつもりでご飯を少し残しておいた。店員さんにお願いすると、残りのご飯とキムチなどを鍋に投入し、手際よく混ぜて最後に韓国海苔を散らしてくれる。鮮やかな手さばきで、あっと言う間にできあがり。

噂の元祖ナクチポックム

これが、えも言われぬおいしさだ。おいしい旨みが溶け込んだスープを吸ったご飯が、おいしくないはずがない。この日はご飯でポックムパッにしてもらったが、残ったスープにインスタントラーメンやうどん、タンミョン(各1,000w)を入れて食べるという手もある。どれもおいしそうだ。

これまでの 「ナクチポックム=辛い」 というイメージをくつがえした 「소문난 원조 조방낙지」。「소문난(ソムンナン)」 は、「噂の、評判の」 という意味だが、まさに看板に偽りなしだ。非常においしくいただいた。

噂の元祖ナクチポックム

소문난 원조 조방낙지(ソムンナン ウォンジョ チョバンナクチ)
釜山市東莱区明倫1洞400-1番地
(051) 555-7763, 554-7763
定休日:第2・4日曜日
*テイクアウト可能


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