2012年05月19日

隣にいても一人(Suddenly Married) 3

つづき

さて、会場内の照明が落とされ、いよいよ開演。舞台はショウヘイの部屋。ある日突然 「夫婦になっていた」 というショウヘイとスミエが、ちゃぶ台をはさんで向き合っているところから始まる。カフカの 『変身』 をパロディー化したような内容。

「夫婦になっていた」 としか説明のしようのないショウヘイとスミエ、そして離婚の危機にあるショウヘイの兄とスミエの姉。4人のやり取りを通して 「夫婦とは何か」、「夫婦になるとはどういうことか」 について考えさせられる60分間だった。

内容も非常に面白く、4人の役者の個性も光り、あっという間の60分。上演中は何度も大きな笑いが起き、観客の反応も大変良かったようだ。上演後は、もう1つのお楽しみ 「観客との対話」 の時間が用意されていた。観客から平田オリザさんや役者に直接質問ができる時間。

左から平田オリザさん、スミエの姉役の森内美由紀さん、スミエ役の신소계(申瑞季=シン・ソゲ)さん、ショウヘイ役の二反田幸平さん、ショウヘイの兄役の永井秀樹さん(▼)。申さんは在日韓国人3世だそうで、韓国語でも少し話されていた。

隣にいても一人(Suddenly Married) 3

まず、平田オリザさんから 『隣にいても一人(Suddenly Married)』 について、

-この作品はもともと、12年前に北海道のアマチュア劇団のために書いたもの。それがこの10年間で、日本中のいろいろな劇団によって上演された。地方で上演するときには、その地方の方言を使っている。今回も、ショウヘイと兄は大阪弁で演じていた。見て分かったと思うが、この作品はカフカのパロディのようなもの。世界で一番力の抜けた不条理劇を作ってみようと思って書いたもの。不条理劇は 「人間の存在そのものが不条理である」 ことから始まっている。結婚という制度も不条理なもの。この作品を通して、結婚について考えてもらえればと思う。

隣にいても一人(Suddenly Married) 3

Q. 結婚についてどう考えるか、全員にお聞きしたい。

A. 森内さん-私自身結婚しているが幸せだし、結婚はいいものだと思う。
   申さん-まだ結婚はしていないし、しなくてもいいかなと思っている。
   二反田さん-結婚しているが、妻のことを家族だとは思っていない。他人だと思って生活しなけいとイライラするから。
   永井さん-入籍はしていないが15年来のパートナーがいる。結婚の制度についてはどうでもいいと思っている。

隣にいても一人(Suddenly Married) 3

Q. 今回、釜山国際演劇祭にこの作品を選んだ理由は。

A. 予算の問題。(役者の)人数の少ない作品でと言われたから。というのは半分冗談だが、今までとは違った作風でとのことでこれを選んだ。これまではどちらかというと笑いの少ないものが多かったので。現在、大阪大学でロボット演劇を作っている。1mくらいのロボットと、人間の実物そっくりのアンドロイドを使ったもの。すでに3月にはタイで上演し、ヨーロッパで1か月、アメリカで2か月ほど上演する予定もある。韓国でも早ければ来年あたり上演できるかと思っている。スポンサーがいればすぐにでも上演できるが(笑)。

Q. 韓国の演劇と日本の演劇の違いは。

A. 韓日の交流が盛んになって、もはや韓国の演劇はこうだ日本の演劇はこうだ、とは言えなくなっている。私(平田さん)と同世代か若い世代では特に、違いというのはないと思う。韓国は演劇学部のある大学が多く、俳優の層も厚い。日本は劇作家大国と呼ばれるほど多くの作品が出ているが、ソウルの大学路では日本の作品が上演されない日はないほど。韓日はお互いに、強い点と弱い点を補いあっていると思う。

Q. 演劇人として生きていく意味を皆さんにお聞きしたい。

A. 永井さん-演劇を客観的に見ることで、見る人が豊かになったり癒されたりする、そういう場を提供できればと思っている。
   二反田さん-映画と違って、今日は面白くても明日は面白くないということもある。そいういうことを日々感じている。
   申さん-高校では日本の演劇を学び、大学時代は韓国で演劇を学び、今再び日本に戻って平田オリザさんのもとで演劇をしている。演劇とは自分探しだと思う。
   森内さん-学生時代に演劇に触れ、感じるところがあった。以来、演劇にかかわっていきたいと思ってきた。
   平田さん-私は作家でもあり、大学で教授もしているが、演劇だけが30年間やってきて今でも私をドキドキさせてくれる。他のものはだいたい予測がつくが、演劇だけは予測がつかない。この先、このドキドキがなくなったら演劇をやめるつもりだが、今のところまだ大丈夫。

Q. 最後のシーンで、ショウヘイはパジャマに着替えるといって部屋を出た。スミエは歯磨きをするため部屋を出るところで一度立ち止まって振り返ったが、何か意図があるのか。

A. スミエが振り返らずにそのまま出て行くと、これで芝居が終わりだと分からないから。また、パジャマに着替えるということで、ショウヘイは 「夫婦になっていた」 という事実を受け入れようとしているのかもしれない。そしてその後、部屋を出ようとして振りかえったスミエも、そのショウヘイの様子から何かを感じたのかもしれない。

大学時代、ソウルの延世大学で1年間韓国語を学んだという平田オリザさんは、観客からの質問は通訳なしで完全に理解されていた。25年も前のことなのでと謙遜されていたが、話すのも流暢だ。平田さんの左の方が通訳(▼)。平田さんや役者の日本語を韓国語で観客に伝えていた。

隣にいても一人(Suddenly Married) 3

最後に、チケットの半券での抽選。平田さんが箱の中から半券を引く。見事当選したのは大学生くらいの男性。景品は中国・青島行き航空券だそうだ。

隣にいても一人(Suddenly Married) 3

実に面白く、平田さんがおっしゃっていた通り 「夫婦とは何か」、「夫婦になるとはどういうことか」 などについて考えさせられる芝居だった。思いがけず間近で見られて、なおさらよかった。また平田オリザさんの作品が上演されれば、是非観てみたい。


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