Busan nikki 1 (2008～2013)

夫が勤めていた大学との契約が満了したことに伴い、私たちはこれまで住んでいたアパートから、同じアパート群の他の棟へ引っ越すことになった。

アパートの周辺にはたくさんの不動産屋がある（写真の建物は全て不動産屋▼）。まずネットで部屋の目星をつけて、その部屋を仲介している不動産屋を訪ねてみた。対応してくれたのは中年の女性。その不動産屋の経営者だ。ここ以外にも、不動産屋の経営者は女性であることが多いようだ。



てきぱきと用件を聞いて対応してくれる。あいにく私が目星をつけていた部屋はもう他の人が契約したそうだが、こちらはどうですかと別の物件を紹介してくれた。そちらの方が、より私たちの希望に合うものだった。

この日はただ話を聞いてみるだけのつもりで訪れたのだが、「今ちょうど部屋が空いてますから、見てみますか？」 と言ってくれたので、不動産屋のスタッフと一緒に見に行ってみた。

1階で警備員に鍵を借りて部屋へ。「さぁ、ご覧になってください」 とドアを開けてくれたのだが、中を見て驚いた。

「部屋が空いていますから」 と聞いて私は、今誰も住んでいない空き部屋だと思っていたのだが、家具も家電も何もかもある 「まさに今も誰かが住んでいる部屋」 だ。

「空いていますから」 というのは 「ちょうど今住人は外出していて部屋にいませんから」 という意味だったのだ。

不動産屋さんの立ち会いのもととはいえ、住人の留守中に無断で家に上がり込むようで何だか落ち着かない。よく見てみてくださいねと言われるものの、やはり何か悪いことをしているようで、そうそうじっくりと見られたものではない。

日本でこういうことがあるのかどうか分からないが、韓国ではよくあることのようだ。現在の住人が部屋から退出することが決まると、次の住人となる人に部屋の間取りなどを確認してもらうため、実際に部屋に入って見てもらうのだ。

今回のように、現在の住人の留守中に部屋に入ることもあれば、現在の住人が在宅中に見せてもらうこともある。留守中に入る場合、あらかじめその可能性があることを住人に通知してあるのか、またはそういう方法が韓国では一般的でいちいち通知しないのか、までは分からないが。

落ち着かない気持ちで間取りなどを見せてもらい、不動産屋へ戻る。夫と相談し、引っ越しの日にちの調整もうまくできたので、その部屋で契約することにした。

今後の手続きなどについててきぱきと説明してくれる。なかなかのやり手のようだ。さすが不動産という高額な物件を扱い、日々いろいろな客と対応し百戦錬磨しているだけあって、かなり仕事ができるという印象。

その日は手付け金だけ払い、翌日、夫同伴で契約書を交わした。後は保証金（部屋を退出するときに全額返してもらえる）を引っ越し当日に支払い、月々の家賃（월세＝ウォルセ＝月貰）を払っていくという段取りだ。不動産屋に支払う仲介手数料は算出方法が決まっており、今回は家賃1ヶ月分程度だった。

ちなみに韓国で不動産を借りる場合、今回のように月々家賃を支払うウォルセの他に、전세（チョンセ＝伝貰）という仕組みもある。まとまった金額を、入居時に一括して支払う（預ける）代わりに月々の家賃は不要。部屋を入居時と同じ状態で保つという条件はあるが、退出時にはそのお金を全額返してもらえるというものだ。

部屋を借りる人にすれば、月々の家賃は不要で、最初に払った（預けた）お金も退出時には返してもらえるので、まとまったお金さえ準備できれば実質タダで部屋を使うことができることになる。

また部屋の大家にとっては、最初に預かったお金は財テクなどに活用し、自身の財産を殖やすチャンスを得るということになる。両者にとってメリットがある仕組みと言えよう。しかし、このチョンセで預けたお金を大家が全額返済してくれないというケースもあった（ある）ようで、多少リスキーな面があるのかもしれない。

それはともかく、あれよあれよという間に話が進んで契約成立。良くも悪くもスピードを求める韓国人（特に釜山人??）気質のおかげで、あっと言う間に条件に合う部屋が決まってよかった。