2012年01月18日

観客中心の映画館で 『奇跡』

先日、夫が偶然、大学街付近で元教え子さんに会ったそう。少し立ち話をしていると、その教え子さんは今から文化会館の裏にある映画館に行くところだと言う。そんなところに映画館なんてあったかなと不思議に思い、ちょうど夫もそちらの方向に行く途中だったので、その映画館まで一緒に歩いて行ってみたとのこと。

その日帰宅した夫から、その話を聞いた。日本の映画も上映されていて、ついでに上映予定表ももらってきたから観に行ってみよう、と。予定表によると、今はちょうど是枝裕和監督の 『奇跡』 が上映されている。2011年の第16回釜山国際映画祭でも上映された作品だ。

その映画館の名前は 「국도&가람예술관(国都&カラム芸術館)」。

観客中心の映画館で 『奇跡』

映画館といえば、1つの建物内に上映館がいくつもあるシネマコンプレックスが主流になってきている中、この 「국도&가람예술관(国都&カラム芸術館)」 の存在は目を引く。釜山市大淵洞(テヨンドン)の釜山文化会館のそばにひっそりとたたずむ国都&カラム芸術館は、個人が運営する全国でも唯一の映画館だ。「Always with you(いつもあなたと共に)」 をスローガンに観客中心の映画館を目指し、シネマファンから厚い支持を得ている。

国都&カラム芸術館の歴史は長い。もともとの国都劇場は、映画全盛時代の1969年に富平洞(プピョンドン)で開業した。その後2000年に、国都劇場本館(現在の 「CGV南浦(ナンポ)」 のある場所)の第2館として、再上映専門の映画館が開館(現在のロッテスーパー南浦店の場所)。

しかしその道のりは険しく、休館の時期があったり、レイトショー上映館やアニメーション専用館(2003年)、制限付き映画上映館(2004年)などと変貌しながら、生き残るために紆余曲折を経た。

当時の映画ファンは、自分たちがまた見てみたいと思う映画を再上映してくれる映画館を求めていた。その要求に応じてくれたのが国都劇場。やがて国都劇場は、制限付き映画よりも、観客がリクエストする映画を上映することが多くなった。やがて2006年4月、国都劇場は芸術映画専用館に生まれ変わり、名称も 「国都芸術館」 に変わった。

その後、国都芸術館はさらなる転機を迎える。2008年6月、国都芸術館が入居していた建物の持ち主が建物を売却したため、建物を賃借りしていた国都芸術館は行き場を失った。同年4月30日19時の 『ミスアンダースタンド』 という映画の上映を最後に、国都芸術館の建物は取り壊された(その跡地には、2009年にロッテスーパー南浦店がオープンした)。

国都芸術館の館長は、そのことが原因で閉館することも一時考えたが、存続を望む観客たちが奔走、次なる入居先を探してきた。それが、現在の大淵洞にある 「가람아트홀(カラム・アートホール)」 だ。同アートホールに入居し、正式名称も 「국도&가람예술관(国都&カラム芸術館)」 と変わった。

国都&カラム芸術館は路地を入ったところにあり、あまり目立たない。上映作のポスターが掲示されている掲示板横の階段を下りたところが入り口。

観客中心の映画館で 『奇跡』

ドアを開けるとすぐチケット売り場になっている。狭い空間なので、上映時間が近づくとチケットを買う人々で階段に列ができる。チケット売り場の横にはお菓子や飲み物を売っている簡単な売店と、小さな椅子が数個。入場時間までの待合室も兼ねているのだ。

観客中心の映画館で 『奇跡』

前回の上映が終了すると、上映館の中に案内される。小劇場のような雰囲気だ。後ろの壁にはガラス越しに上映室が見える。

観客中心の映画館で 『奇跡』

ここで上映されるのは主に 「芸術映画」。「芸術映画というと、台詞が一言もないフランス映画なんかを思い浮かべる人が多いと思いますが、芸術映画とはいろいろ考えさせられる映画のこと。感じることが多く、互いに多くの感想を述べ合うことができるような、そんな映画のことだと私は思っています」。国都&カラム芸術館のマネージャー、チョン・ジナ氏の言葉だ。

また、同芸術館が運営するカフェ(ネット上のコミュニティ)は、上映作の日程を紹介するだけでなく、「会員リクエスト作」 のコーナーを設け観客の要望に応えている。「観客中心の映画館」 と言われるゆえんだ。

基本的には朝10時ごろから夜9時ごろまでの間に、1日6~7作の映画を上映する。大人6,000ウォン。映画上映の日程は平均2週間単位で組まれ、2週間の間は十数本の作品を、毎日時間帯を入れ替えて上映する。

中には1日に数本の映画を見る観客もいるため、なるべく同じ作品を1日に複数回上映しないように予定を組んでいる。また同じ作品でも、ある日は午前中に、ある日は午後遅くにと上映の時間帯を分散させることで、より多くの人が各自の都合に合わせて見に来られるようになっている。

また、国都芸術館はカラム・アートホールと1つの空間を共有しているため、同ホールが貸館される日には映画の上映はない。

前の上映回の観客が出た後、上映開始時刻の10分ほど前になると入場できる。週末ということもあってか観客は多い。3ブロックある座席のうち、中央部分の座席はほぼ全部埋まるほどで、一般的な大型映画館より客の入りはむしろ多いくらいだ。チケットには一応座席番号が書かれているが、自由席。ほぼ予定通りの時間に始まった。

上映中の会場は、面白い場面では大きな声で笑ったりと、アットホームな雰囲気に包まれる。まるで誰かの家のホームシアターで映画を楽しんでいるかのように和やかだ。

映画 『奇跡』 は実に素晴らしかった。特に、主演の男の子2人は、演技なのか素顔なのかあるいはその区別がないのか、本当に素晴らしかった。橋爪功や樹木希林、原田芳雄といったベテラン俳優の演技にも、まるで引けを取らない。実に堂々として、実に自然で、実にチャーミングだった。

後で、彼らが 「まえだまえだ」 というお笑い芸人として、舞台やバラエティー番組で活躍している実の兄弟とだ知り、驚きもしたし、なるほどと納得もした。また彼らの大阪弁がとても自然なのも、彼らが大阪出身だと知ってこれまた納得。

128分の間、スクリーンにひきつけられっぱなしだった。見終わった後味も非常に良い。他の韓国人の観客たちの反応もかなりいいようだった。ちなみに連合ニュース(1月12日)によると、『奇跡』 は、昨年12月22日に公開されて3週間で、累積観客数が3万人を突破したそう。わずか全国22ヶ所の上映館で上映されただけで、この記録はなかなかのものだと評されていた。

映画が終わってエンドロールになっても、席を立つ観客はほとんどいない。ほとんど全ての観客が、エンディングの歌を聴きながらエンドロールが終わるまで座っている。これは大型映画館などでは見られない光景だ。本当に映画が好きな人が、見たい映画を見にきているのだと感じる。紆余曲折を経て現在に至る国都&カラム芸術館。いつまでも、映画を愛する人のための映画館として存続してほしいと感じた。

국도&가람예술관(国都&カラム芸術館)
(051)245-5441
釜山文化会館正面向かって右手の路地の中
カフェ:http://cafe.naver.com/gukdo


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