2011年01月20日

草梁テジカルビ

東莱(トンネ)パジョン、伽耶(カヤ)ミルミョン、門峴(ムンヒョン)コプチャン、チョバンナクチ、亀浦(クポ)ククスは、釜山で生まれ釜山の人々にこよなく愛されてきた食べ物だ。そしてここに、草梁(チョリャン)テジカルビも忘れてはならない。草梁のある一角に、テジカルビの店が一つ二つとでき始め、それがやがてテジカルビ通りとなったのだが、その背景には釜山港の歴史がある。

朝鮮戦争以降、外国からの物資が釜山港に集まるようになり、釜山港には大勢の人手が必要になった。全国から押し寄せてきた港湾労働者たちは、港からほど近い草梁・水晶洞付近で暮らすようになった。港での仕事は厳しい肉体労働で、仕事帰りにテジカルビでも食べないと体力的に続けられないものだった。現在の草梁のテジカルビ通りは、そういった港湾労働者たち相手に始めた店が、今に至ったものだ。

草梁テジカルビ

草梁テジカルビ通りに客足が途絶えないのは、昔から長い間通いつめた常連客が今でもいるからだ。彼らは昔の味を覚えていて、その変わらぬ味を楽しみたくて店にやって来るのだ。昔ほどではないにしても、今でも大勢の客で店内はいっぱいだ。当時は、練炭の火鉢の前でガタガタの椅子に座り、もうもうと上がる煙の中で肉を食べていたような時代だった。

今では、練炭が炭火やガスの火に変わり、排煙設備も整った。しかし、肉だけは輸入肉を使わず国産豚肉を使い、その日その日ごとにヤンニョムに丁寧に漬け込んでいるため、味は昔と変わらないのだと言う。

草梁テジカルビは、ヤンニョムに生姜やニンニクをたっぷり使うため特有の臭いが消え、また機械ではなく手で肉をスライスするため、肉が分厚く食べたときの食感・味もよい。店ごとにヤンニョム配合の秘密があり、どうやってその味を出しているのか想像しながら食べるのも楽しい。

1980年代以降、港湾施設の機械化に伴って労働者の人手がそれほど必要ではなくなると、代わって家族で訪れる客が増えてきた。経済状態がよくなってきたとはいえ、なかなか肉を食べることができなかった時代に、安くておいしいテジカルビは家族で外食するときには打ってつけだった。

お父さんの給料日や子供の誕生日ともなれば、お父さんが意気揚々と外食しようと声をかける。お母さんは「高いものを食べられるわけでもないのに大げさね」などと言いながらも、嬉しそうに子供たちに支度をさせる。子供たちは待ちきれず外へ飛び出す。こんな光景が目に浮かぶようだ。

草梁テジカルビ

外食することが一般的になったのは、そう昔のことではない。伝統的な食文化では「外でお金を払って食べる」ことなど考えられなかった。日本占領期に中国料理や日本料理の店ができたが、少数の富裕層だけが楽しめる特権だった。韓国での外食産業は1980年代に入り、資本主義経済の成長と共に急激な成長を遂げた。釜山もやはり工業化政策に伴って履物や織物の工場などが発展し、近隣の農村出身の人たちが集まり低賃金労働者となったのだ。

農村の人が生活基盤を都市に移すときには、家族全員で移動する。いったん都市に定着すると、父親を中心とした4~5人の核家族を形成することになる。いわば「庶民家族の誕生」だ。当時普及し始めた白黒テレビに映し出される家族団らんは、主に洋食屋で外食する様子だったが、庶民家族は安いテジカルビや中国料理屋などに行くことが多かった。

現在でも、家族で外食をするときには肉を食べる店が好まれる。輸入牛肉のため以前よりも牛肉料理が安く食べられるようになったとはいえ、やはり気軽に行けるのは豚肉料理の店だ。分厚くておいしいサムギョプサルから、冷凍サムギョプサルを紙のように薄く切った様子からその名が付けられた「かんなサムギョプサル」まで、種類も豊富だ。最近では釜山でも、緑茶を食べさせた豚、韓方豚など全国規模の大型チェーン店ができ、豚肉以外の飲食店もたくさんある。そのため「草梁のテジカルビ通り」の名は以前より衰退しつつあるが、それでもやはり根強い人気は残っている。

安くておいしく、気軽におなかいっぱい食べられるテジカルビ。今では誰でもが食べるありふれたメニューだが、その発祥はと言えば厳しい労働をする港湾労働者が、明日への活力・英気を養うために食べていたものだったという事実。そう言われて、港湾労働者になった気分で食べてみると、何となく体に力がみなぎる感じがするのは気のせいだろうか。

1985年にオープンし、今年で創業26年目という「88돼지숯불갈비(88炭火テジカルビ)」も、昔はそれはそれは賑わっていたのだという店員さん。炭火の上の焼き網でヤンニョムテジカルビを焼いてくれながら、当時の様子を懐かしむように話してくれた。真っ黒に日焼けした港の男たちが、店内がかすむほどの煙の中でおいしそうにテジカルビを食べている様子が、目に浮かぶようだ。

草梁テジカルビ

この店のヤンニョムはやや甘めなのが特徴。肉は分厚く非常に柔らかい。炭火焼き特有の香ばしさが食欲をそそる。国内大企業のブランド肉を使っているため肉質そのものもよいが、おいしさの秘訣はそれだけではないと言う。下処理するときに豚肉を水に漬けて重石を置き、肉の中に残っている血を出し切ってしまうのだそうだ。この処理のおかげで、味も食感もぐんとよくなるのだそう。

また生カルビを焼くときには肉が焼き網に焦げ付いてしまうため、ホイルを敷いた上で焼くのだそう。生カルビも豚肉本来の味が楽しめる逸品であろう。ヤンニョムカルビも、焼いてそのまま食べても勿論おいしいが、特製ソースをつけて食べるとまた一味違った味を楽しむことができる。同じ豚肉でも幾通りもの味わいを楽しむことができるというわけだ。

88돼지숯불갈비(88炭火テジカルビ)
釜山市東区水晶2洞301
(051)468-3065


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