豆もやしのピビムパ

dilbelau

2011年01月24日 21:37

韓国にはいろいろな種類のご飯がある。麦、小豆、もち米、アワ、玄米などを混ぜて食べることもあるし、ご飯に豆類、クルミなどの堅果類、野菜、魚介類、海草類、果実などを入れて食べたりもする。慶南地域でも、米飯以外に麦、大豆、アワ、小豆、緑豆、栗などの雑穀を混ぜて食べたり、山間部では大根、ジャガイモ、サツマイモ、とうもろこしなどを米に混ぜたりもした。

ピビムパも地域ごとに特色のあるものが多かった。黄海道のヘジュピビムパ、ソウルの骨董飯、平安道のピョンヤンピビムパ、慶尚道の晋州ピビムパ、全羅道の全州ピビムパなど、多彩な食材を混ぜて食べる文化の伝統を作ってきた。釜山のように山が多いところでは、山菜ピビムパがある。ピビムパは自然の恵みの食材を使って簡単に食べることができ、栄養価も高い食べ物として現在では世界的に広まりつつある。

しかしその昔、餓えや栄養不足状態を補ってくれた食べ物は、各種ピビムパや雑穀飯ではなかった。よく知られている救荒作物としてはジャガイモやサツマイモがある。南米が原産地であるジャガイモとサツマイモは朝鮮時代に入ってき、百姓を救う食物として広まった。

しかしそれ以前から使われており、長い間貧しい庶民たちの食材となっていた最も普遍的な救荒作物は、豆もやし(콩나물=コンナムル)だ。豆もやしは高麗時代に、「郷薬救急方」(韓医書の一つ)にも薬剤として紹介されるほどの長い歴史をもち、水さえあれば簡単に育てることができる食物だ。

昔釜山でも山野や川、海でとれる食材でさまざまなご飯を作って食べていたが、頻繁な和寇の侵略、日本占領期、朝鮮戦争、近代産業化の過程などの激変する歴史の中で、唯一長い間我々の食料となってくれたのは豆もやしだ。今ではスープ、和え物、ピビムパ、蒸し料理などさまざまなものに使われている。

豆もやしは、豆に含まれるたんぱく質と無機質だけでなく、芽が出た豆にはビタミンCも多く含まれ、簡単な栄養食としても遜色のない食物だ。

昔から豆もやしを使ってスープやクッパをよく作った。豆もやしをご飯とともに蒸らしてヤンニョムと一緒に混ぜて食べる콩나물밥(コンナムルパプ=豆もやしご飯)は、調理も簡単で庶民がよく食べる食べ物だ。豆もやしご飯は、慶南地方の郷土料理として伝えられているが、はっきりした由来などは知られていない。朝鮮戦争以降、多くの人が慶南地域に押し寄せてきたときに、豆もやしご飯をよく食べていたのだろうと推測される。野菜と穀類の栄養をまんべんなく併せ持つ豆もやしは、韓国で最もよく食べられる食物で、隣国の中国や日本では豆もやしに似た細もやしを食べることが多い。

豆もやしご飯の作り方はいたって簡単。まず米を30分程度水に浸しておく。釜に豆もやしをたっぷり敷き詰め、水に浸しておいた米をその上にのせ、水を入れて塩加減をしてご飯を炊く。塩を入れずに炊いて、炊き上がったご飯にヤンニョムを混ぜて食べる方法もある。また、炒めた牛肉や豚肉、ジャコなどさまざまなものを入れて、新しいピビムパを試してみることもできる。

豆もやしご飯は栄養が豊富な食べ物だとはいえ、わざわざ食堂に行って食べるほど特別なものというわけではないので、徐々に郷土料理としても存在が薄らぎつつある。豆もやしそのものもおかずの主役というよりは、副材料というイメージが強くなっている。

今ではピザやハンバーガーのようなファーストフードがよく食べられるようになり、豆もやしご飯は家で食べなければ食べることができない特別な食べ物になってしまった。あまりに慣れ親しんでしまったため、その味に関心が薄らいでしまったのだろうか。

私も以前、韓国人の友人に豆もやしご飯の作り方を教えてもらった。簡単にできてしかもおいしいので、時間がないときなどには便利だ。その豆もやしご飯を先日食堂で食べてみた。家庭ではよく作る料理だが、食堂で食べるのは初めてだった。

大きな器に入って出てきた、コンナムルピビムパ(豆もやしピビムパ)=4,000ウォン。たっぷりの豆もやしと炒めて味をつけた豚肉ミンチという、シンプルな具だ。



ヤンニョム(写真▼左下)を適量入れてよく混ぜていただく。日本人の口にもよく合う味だ。豆もやしの歯ごたえが味のアクセントになり、食欲がないときにもすんなりいただける。簡単・おいしい・栄養たっぷりと、まさに三拍子そろった食べ物だ。



一緒に出てくるおかずには、キムチ類やサバと大根の煮物、ジャコの和え物など一般的な食堂でよく出てくるものもあるが、その中でもビジチゲ(おからのチゲ)が目を引く。(写真▲中ほどのベージュ色)いかにも豆を扱う店らしい。豆の風味たっぷりの珍味だ。

日本で多く使われる細いタイプのもやしとは違い、立派な豆が存在感をはなっている韓国の豆もやし。たかがもやし、とあなどることなかれ。水さえあれば簡単に栽培でき、味もよく栄養もたっぷり、主役にもなれば名脇役にもなる、優秀な食材だ。食べるものがなくて困っていた時代に人々を救ってくれた豆もやし。その存在にもう一度注目してみてはどうだろうか。



원조콩나물비빔밥(元祖コンナムルピビムパッ)
釜山市東区水晶2洞188-1
(051) 464-2386
営業時間:11~22時
定休日:日曜日

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