2月2~9日、釜山文化会館や新世界センタムシティ文化ホール、パラダイスホテルの3つの会場で、「第7回釜山国際音楽祭」 が開かれていた。6日以外の毎日、全部で7つの音楽会が開かれた。私は7日に釜山文化会館大劇場で開催されたコンサートを、夫と聴きに行った。
タイトルは 「家庭音楽会-巨匠の室内楽」。演奏は休憩をはさんで約2時間。
1.グリエールの 『2台のチェロのための2つのデュオ 作品53』
(チェロ=김이선(キム・イソン)、Peter Wiley)
2.ドヴォルザークの 『ピアノ5重奏A長調 作品81』
(ピアノ=주희성(ジュ・ヒソン)、バイオリン=N. Kitchen、김동욱(キム・ドンウッ)、ビオラ=신연황(シン・ヨンファン)、チェロ=정명화 (チョン・ミョンファ))
3.メンデルスゾーンの 『弦楽8重奏Eフラット長調 作品20』
(バイオリン=김남윤(キム・ナムユン)、백주영(ペク・ジュヨン)、김동욱(キム・ドンウッ)、N. Kitchen、ビオラ=신연황(シン・ヨンファン)、전정훈(チョン・ジョンフン)、チェロ=Peter Wiley、김이선(キム・イソン))。
平日の夜だというのに、大劇場はかなり多くの観客で埋まっていたが、この理由はコンサート終了時に分かった気がした。メンデルスゾーンの曲を演奏した8人のリーダー的役割を果たしていた김남윤(キム・ナムユン)という女性バイオリニスト、彼女の演奏を聴きたくて訪れた人が多かったのではないかと。
60歳代とお見受けするキム・ナムユン氏が舞台に出てきたときの率直な印象は 「どこにでもいそうな普通のおばちゃん」 だった。衣装も華やかなものではなく、どちらかというと普段着のような黒の上下という姿だったので余計にそう感じたのかもしれないが、本当に、そのへんのバス停でバスを待っていそうな感じの 「おばちゃん」 という印象だった。
が、この女性の演奏が実に実にすばらしかった。彼女がバイオリンを始めたのは6歳のとき。現在60歳ぐらいの人が6歳のときというと、朝鮮戦争が休戦協定を結んで数年後、という時代だろうか。今でこそ、ピアノやバイオリンなど楽器を習う子供は多いが、その当時バイオリンを習っていた子供はごく少数だっただろう。
梨花女子中学、ソウル高校を卒業後アメリカに渡り、ジュリアード音楽院を卒業。国内外のコンクールで数多く入賞するなど、世界的なバイオリニストとして活躍しているのだそうだ。1993年からは韓国芸術総合学校音楽院の教授として在職中で、また同音楽院の院長を歴任するなど、韓国の音楽界への多大な貢献が認められ、政府から玉冠文化勲章を授与されたのだそう。
実に堂々としたその演奏ぶりは、韓国が誇るバイオリニストの重鎮といった感じ。もはやバイオリンも身体の一部なのだろう。
また、キム・ナムユン氏以外の方の演奏も素晴らしかったのは言うまでもない。オーケストラと違い少人数での演奏なので、1人1人の演奏する音がしっかりこちらに伝わってくる。1つ1つの楽器の音色が個々にダイレクトに聞こえるため、奏者の腕が問われる。一緒に演奏する人同士の息もぴったり合っていなくてはならない。
そういう意味では高い演奏力が求められるのだろうが、この日の演奏はどれも本当に素晴らしかった。演奏を料理に例えるなら、よい素材ばかりを厳選し、素材の味を生かして最高の味を引き出した演奏、とでも言おうか。感動的な演奏だった。