9月22日の公開後わずか5日間で観客動員数100万人を、3週間で400万人を突破し、韓国で大きな話題となっている映画 「도가니(トガニ)」(るつぼ)を、先日観に行った。
光州に実在する聴覚障害児のための特殊学校 「광주인화학교」(光州仁和学校) で2000~2005年まで、児童に対し常習的に行われていた虐待・性的暴力事件を扱った映画だ。
原作は공지영(コン・ジヨン)氏という女性作家の同名長編小説(▼)で、出版された2009年当時もその衝撃的な内容に反響が大きかったそうだ。
しかしこのたび映画化したことで、より多くの人の目に触れ、事件が大勢の人々に知られることになった。映画が公開された当初は、テレビニュースでも連日大きく取り上げられていた。
事件は2005年6月に被害者児童の母親が告発したことで明るみに出た。児童9人に対し性的暴力を加えた嫌疑で、学校の職員(校長、行政室長、教師など)6人を被告とした裁判も起こされたが(2007年)、下された判決は 「実刑2人、執行猶予2人、控訴棄却・不起訴2人」 という信じがたいものだったそうだ。
校長に対しては懲役5年が求刑されたが、控訴審で懲役2年6ヶ月執行猶予3年という判決が下される。1年服役したのち出所、その後ガンのため死亡。
行政室長は嫌疑を認めたが、公訴時効を過ぎたため実刑はなく損害賠償2000万ウォンを支払うという判決。また教師に対しては懲役10ヶ月が求刑されるが、公訴権が満了したため実刑は執行されてない。
映画 「도가니」 が公開されたことにより、当時の事件を再捜査し裁判をやり直すべきだという声や、この 「光州仁和学校」 以外の学校でも少なからず行われていると言われる障害者児童に対する性的暴力・虐待を、徹底的に調査すべきだという声が高まり、デモも行われていた。
施設名も実名を出したいわば告発本を書くのは勇気がいった思うが、その性質上外部との接触が少なく閉鎖された特殊学校内の実状を、より多くの人に知ってもらいたかったという作者の意図は、映画化によってより具現化されたわけだ。
児童役を演じるのは当然未成年の子供。虐待や性的暴力シーンの撮影にあたりどういう表現・演技までは許せるか、児童役の子供の保護者に立ち会ってもらい許可を得ながら撮影したのだそうだ。
土曜日の夕方。映画館の座席は7割ぐらい埋まっていただろうか。次第に、観ている人々の激しい憤怒が館内に充満してくるのが感じられる。決してあってはならないことがまかり通っている。だいたいのあらすじを知った上で観ていても、やり場のない怒りや悲しみのため、握ったこぶしに思わず力が入る。
敬虔なクリスチャンの仮面をかぶった人非人が、裁判で執行猶予がついたときに見せたあの薄ら笑い。これは映画のワンシーンだと分かっていても、ぶん殴ってやりたいほどだ。はらわたが煮えくり返るとはまさにこのこと。
しかしもっとやりきれないのは、これが映画の中だけの話ではなく、今も現実にいろいろな施設で起こっていることだという事実。
この映画を1人でも多くの人が観て、こういうことが実際にまかり通っているのだという現実を認識することが、間接的にではあるが流れを変えていく一歩になるのではないかと思う。これ以上同じような地獄を味わう子どもたちが増えないように。
光州市教育庁は現在 「光州仁和学校」 の監査を進行中で、問題点があれば特殊教育委託機関を取り消して廃校にする方針だ。事件当事者には相応の罰を科し、社会的な体質も変えていってほしいと切に願う。