5月1日~10日まで開かれていた、
第7回釜山国際演劇祭。釜山国際映画祭ほどの知名度はないようだが、毎年世界各国からの多くの作品を上演している。
先日、韓国人の知人から、その演劇祭に関して電話があった。日本から来る作品の一つに 「
素浪人ワルツ(スローニンワルツ)」 というものがあり、上演終了後約10分間 「観客との対話」 という時間を持つ。その時の観客と役者・演出家との通訳をお願いできないだろうか、というもの。
その知人自身も日本語は堪能で、もともとは彼が依頼を受けた話とのことだが、「素浪人ワルツ」 の演劇内容が江戸時代や侍などという、日本の歴史に関連することも含んでいるということや、大阪の劇団とのことで大阪弁が聞き取れないかもしれない、という不安があって私に連絡したのだという。
私もそのような場での通訳は経験がないし、私の韓国語の能力で勤まるかどうか不安だと話したのだが、司会者もついているので大丈夫でしょうとのこと。ならば、とお引き受けすることにした。
さて当日、「素浪人ワルツ」 の公演は16時と19時の2回。私は19時の回を観る予定で少し早めに会場へ。「観客との対話」 の司会者の方や、演劇祭の対外担当室長の方、舞台監督や演出家の方たちと挨拶し、打ち合わせを済ませる。
「観客との対話」 は上演終了後すぐ行われるとのことで、すぐに舞台に上がれるよう一番前の席を用意して下さっていた。
定員200人ほどの小劇場なので舞台も狭く、客席と舞台との距離も近い。最前列なので、手を伸ばせば届きそうなぐらいのところに舞台がある。
客席は満席。会場である慶星大学は演劇科が有名で、同大学の学生も来ているらしい。中には制服姿の高校生も。
芝居が始まると、一気にその世界に引き込まれる。一部韓国人スタッフの通訳も入るが、大半は舞台正面スクリーンに韓国語と英語の字幕が映し出される。
チェロ・ギター・アコーディオンの3人組の楽団(『
ザッハトルテ』)が奏でる音楽とともに、マイムを駆使しながら演技するいいむろなおき さん、演技もしながら芝居の解説もする安元美帆子さん、そして頭から足の先まで真っ黒なレオタードのようなものをすっぽり着た 「黒い人」(田中啓介さん)を中心に話が進んでいく。
話の展開もおもしろくテンポも軽快で、楽団の生演奏も迫力があり、映像効果も実にユニーク。
いいむろなおきさんのマイムも素晴らしく、客席からは何度もどよめきが聞こえていた。さらっとこなしているように見えるが、相当な運動量なのだろう。首筋には汗が光り、時々ポタポタと落ちているのが見える。
また、これは大阪人の特権だと思うが、安元さんの話すバリバリの大阪弁に、これまたなんとも言えない親近感を感じる。ちなみにこの美人の女優・安元美帆子さんは、劇団 『
sunday』 所属。女優業と1級建築士の ”二足の草鞋” という珍しい経歴をお持ちだそうで、最近では焼酎亭乱夢として高座にあがり、地元・神戸では落語会も主催しているのだそうだ。
1時間20分、観客たちも大いに盛り上がり、やんややんやの大歓声に拍手喝采。大成功のうちに舞台は終わった。
もともと、「素浪人ワルツ」 は、2008年6月、大阪・梅田にあるHEP HALLの企画公演として上演。近年は自身の活動団体Sundayでもパフォーマンス色の強い演劇作品を作ってきたウォーリー木下が、フランス仕込みのマイム俳優いいむろなおきと、ヨーロピアンなカフェミュージックを奏でるザッハトルテという、ともにヨーロッパの雰囲気を漂わせる両者とのコラボレーションに時代劇という題材を選び、身体表現とインスト音楽という言葉に囚われない両者に、映像、黒子、解説を加え、唯一無二の、不思議でライブ感あふれる時代劇パフォーマンスが誕生した (
素浪人ワルツHPより)
「観客との対話」 の時間も、次から次へとたくさんの質問が出て、観客たちのこの芝居に対する関心・満足度の高さを物語っていた。通訳は、一部聞き取れない部分もあったが、日本語がおできになる司会者の方たちに助けていただきながら、どうにかこうにか・・・。
最後に、出演者たちが会場ロビーに出てCDやDVD、オリジナルの手ぬぐいなどを販売。購入した人には、サインや写真のサービスも。売り場はこの人だかり。
この釜山公演の後は、大阪で公演されるそうだ(5月13~16日・大阪HEP HALL)。
これはかなりおすすめの作品!! 一見の価値あり。機会があれば是非私もまた観てみたい。