食卓に春の光を

dilbelau

2013年01月21日 08:42

先日、夫と今年初の 「소예(ソイェ)」 へ。献立作りから仕入れ、調理、盛り付け、配膳、下膳、洗い物、片付け、さらには予約のためかかってくる電話の対応、車で来た客に対する駐車場所の指示まで、すべて1人でこなされるチャーミングなスーパーウーマンの食堂だ。

1人1人の客に心のこもったもてなしをするため、メニューは 「定食」(7,000w)1種類だけで、昼食時のみの営業、完全予約制で運営している。エプロンに三角巾姿のおばさんがフル回転で立ち働く店は、テーブルと観葉植物が少々あるだけのシンプルなインテリア。店内を飾り立てることより、いかにおいしい料理を出してお客さんに満足してもらうか、そのことだけに専念している感じだ。

料理は季節ごとの旬の素材を使った創作料理。見た目にも美しく食べてもおいしい芸術的な料理の数々が並ぶ。定番のおかずもあるが、行くたびに初めていただくおかずも必ず数品は出るので、今日はどんな料理だろうと毎回ワクワクしながら店を訪ねる。

この日も 「いらっしゃいませ~、あら久しぶりね~。どうぞ~」 と笑顔で迎えてくれる。小柄な身体のどこにそんなパワーがと思うほど、とてもエネルギッシュな方だ。この日も見事な 「作品」 が並ぶ。



どれもおいしそうだが、特に目を引くのは柚子釜に入った生牡蠣(▼)。私は普段、生牡蠣は念のため食べないことにしているのだが、この店のものなら安心だろうといただく。ぷりぷりの牡蠣がたっぷり5粒ほど入っていた。非常においしい。



こちらも非常に美しい一品。プチトマトをくりぬいて、ボイルエビとブロッコリー、アルファルファを詰め、クリームチーズを添えたもの。それぞれの食材が合わさって、何とも言えぬおいしさを生み出していた。



こちらは大根と小ぶりの魚の煮物(▼)。魚は양미리(ヤンミリ)というそうで、この時期にのみとれる魚だそうだ。日本ではシワイカナゴと呼ぶらしい。ぶつ切りにして煮てあるが、身はもちろん骨も柔らかいので丸ごと全部食べられる。旬のおいしさだ。



おいしくいただいていると、「これもどうぞ」 ともう一品持ってきてくれた。「昨日のおかずだけど、少し残ったから食べてみて」。黄色いプチトマトとセロリのサラダだ(半分ほど食べてしまってからの写真▼)。ソースにプチプチしたものが入っていて珍しかったので聞いてみると、좁쌀(チョプサル=粟)を使ったソースだそう。酸味があり独特の食感でおいしかった。



おばさんが忙しそうにしているのを見て、隣のテーブルのおばさん2人組が 「1人で大変でしょう」 と言うと、「大変なもんですか。楽しいですよ。お客さんがこんなに大勢食べに来てくれるんですもの。とっても楽しいですよ」。笑顔で答えるおばさんの表情は、生き生きとして本当に楽しそうだった。

そうだろうと思う。楽しいと感じられなければできない仕事だ。1人で全てをこなさねばならないので、毎日同じメニューを作って出すのでも容易ではないだろうに、ましてや日々新しいメニューを創作し続けるというのは、好きでないとできないことだろう。

店内の壁にかけられたおばさん直筆と思われる文字(▼)。

「冬のさなか、食卓に春の光を。
 健康、そして品格まで考える食事のために」



「ご飯は残さず食べなさい」 と言われて育つ日本人とは違い、韓国人は、特に誰かの家に招かれたときなどは 「食事は全て食べずに少し残す」 のが一般的。「食べられないくらいたっぷりの食事を用意してもてなしてもらいました」 というしるしだ。

最近は物価の上昇に伴っておかずの量を減らしている店もあるが、基本的には韓国の食堂では食べきれないほどのおかずを出してくれる。客の側も当たり前のように残す。そこでおかずの再使用(使いまわし)問題が出てくるのだが、ここではそれは置いておくとして。この店に限っては、私の見る限り多くの客がほとんどおかずを残さずに食べて帰る。私たちも含めて。

料理がおいしくボリューム的にも適当だということもあるが、やはり手間ひまかけて心をこめて作ってくれたのが感じられる料理なので、残さず食べずにはいられないのだ。この日も非常においしく、おなかも心も満たされて大満足で店を出た。



소예(ソイェ)
釜山市水営区民楽洞164-23
(051) 752-1727
営業時間:昼食時のみ(予約必須、予約は当日の朝9時頃以降に、2名以上可)
定休日:火曜日・日曜日
* 41番バス民楽方面 「동방시장(東方市場)」 下車、バスの進行方向に進んですぐの角を右へ。T字路に突き当たったら再び右に曲がるとすぐ左手にある。

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