先日、釜山生活5年目にして初めてコムジャンオ(ヌタウナギ)を食べた。釜山にはコムジャンオ専門店がたくさんあるし、どんな料理か写真などでは見たことがあったのだが、なぜか今まで食べる機会がなかった。
ヌタウナギは深い海に生息するため目は退化し、骨格もないそうだ。日本では、長崎や新潟など一部地域を除いては食用としては流通していないそうだが、韓国では昔から庶民の滋養食として食べられていた。
釜山の中でも機張(キジャン)では藁を燃やして丸焼きにしたり、匂い付けに松葉を敷いて網焼きにする伝統的な食べ方が主流のようだが、チャガルチなどでコムジャンオと言えば、ぶつ切りにしたヌタウナギと野菜をコチュジャンで炒めて食べたり、網で焼いて食べるのが一般的のようだ。
この日、職場の上司らが連れていってくれたのは、チャガルチのコムジャンオ専門店が集まるエリア。地下鉄1号線南浦洞駅2番出口近くの 「釜山総合観光案内所」 から海側に歩いたところだ。店先で積極的に客を呼び込むおばさんの声をよそに、ここがおいしいんだよと上司が向かったのは 「제일곰장어」(チェイルコムジャンオ)という店。
店頭にはヌタウナギの水槽があり、注文が入るたびにこの水槽から取り出してぶつ切りにして使う(▼)。ヌタウナギは養殖が難しいため全て天然のものだそう。
調理場(▼)。
この店には韓国産とアメリカ産があるそうだ。韓国ではヌタウナギをよく食べるため韓国周辺の水域では漁獲量が減っており、日本やアメリカなどからも輸入しているそうだ。
メニューはコムジャンオ以外に、焼きウナギや貝焼き、ヘムルタン、焼きエビなどもある。コムジャンオは調理法が、「網焼き」・「塩焼き」・「ヤンニョム焼き」 の3種類。値段は「小」(2万w)・「中」(3万w)・「大」(4万w)・「特大」(5万w)の4種類。この日は4人だったので、国産のコムジャンオ 「特大」 のヤンニョム焼きを注文した。
まず、真っ赤に熾った練炭が運ばれてくる。その上に年季の入った鉄板をのせる。目の前でヌタウタギを調理するのを見るのは初めてなので、興味津々で店のおばさんの手元を観察。この店のおばさんたちは、先ほど他店で客引きしていたおばさんのような押しの強さはなく、どのおばさんも誠実で優しそうな雰囲気なのが好印象だ。
次に、ぶつ切りにしたヌタウナギと野菜、そして秘伝のヤンニョムをのせたアルミホイルを運んできて鉄板の上にのせる。ぶつ切りにされても、コムジャンオはまだ元気にくねくねと動いている。初めて間近で見るコムジャンオ、しかも体を切られてもまだ動いている様子はかなり印象的だった。
具材をのせたアルミホイルを練炭の上の鉄板にのせると、すぐにアルミホイルの四方を折り曲げて中身を包む(▼)。くねくね動くコムジャンオが落ちてしまわないようにするためだろう。
やがて、頃合いを見計らっておばさんがアルミホイルを開けて、均一に火が通るよう上下を返すように混ぜる。コムジャンオはまだクネクネ動いているものもいる(▼)。
そのうち、さすがにコムジャンオも動かなくなった。その後も全体に味がよくなじむよう、かき混ぜながら加熱する。ぶつ切りにしたコムジャンオの断面から内蔵(?)がくるりと反転するように顔を出せば食べごろだそうだ。
そのまま食べてもよし、サンチュやエゴマの葉で、焼いたニンニクと一緒に包んで食べてもよし。一緒に出てくるシジミのスープも美味。
初めて食べるコムジャンオは、思ったよりおいしかった。真っ赤なヤンニョムで炒めるので辛いのかと思っていたが、全く辛くない。コリコリとした独特の歯ごたえがあり、身そのものは淡泊な味だ。
上司らは焼酎を酌み交わしながら、飲めない私は気分だけ飲んだつもりでコムジャンオをいただく。「特大」 のコムジャンオもあっと言う間になくなり、「小」 を追加注文。
追加分もほぼ食べ終えたら、締めにはお楽しみのポックムパッ。残ったヤンニョムにご飯と刻み海苔やニンニクを加えて炒める。食材やヤンニョムの旨みをまとったご飯がおいしくないはずがない。期待を裏切らないおいしさだ。このコムジャンオをはじめ、ナクチポックムやコプチャンチョンゴルなどの残ったヤンニョムで作るポックムパッは、私の好きな韓国料理ベスト3に入る。
写真の中央やや手前にあるのがコムジャンオのしっぽに近い部分(▼)。
このエリアにはコムジャンオ専門店が立ち並ぶが、中でもこの 「제일곰장어」 は古くからの店だそう。料理もおいしく、商売に対する姿勢も真摯な感じで、好印象の店だった。
제일곰장어(チェイルコムジャンオ)
釜山市中区南浦洞4街29-3
(051) 245-8990