芸術的定食 1

dilbelau

2012年07月23日 09:09

先日、夫が釜山で5回目のお誕生日を迎えた。何かおいしいものを食べに行こうと、この日選んだのは 「소예(ソイェ)」。店を経営するおばさんは、食材の買い出しから献立の決定、調理、盛り付け、配膳・下膳、洗い物・片付けまで、すべて1人でこなされる。

1人1人のお客さまをおいしい料理でおもてなししたい。ただそのことだけを追求している店だ。そのため店は完全予約制。しかも予約は当日の朝のみ可能。当日以外の予約は受け付けてくれない。何日か前に予約を受け、もし当日急にキャンセルされると料理が無駄になってしまうからだろう。その日、確実に来店する客の人数分の料理だけを、心を込めて準備するのだ。

予約は当日の9時頃から受け付けてくれるので、いつもは朝早めに電話するのだが、この日は電話するのが11時頃になってしまった。電話口のおばさんはちょうど調理で非常に忙しいとみえ、いつもに増して早口で 「12時30分?ダメです。満席です。え?1時?1時もいっぱいです。1時20分頃ならいいですけど・・・」 と。

「じゃあ、1時20分でお願いし・・・」 と言いかける私に 「でもちょっと遅いでしょ。今日はやめてまた今度にされたら?1時30分っていうとそれまでにお腹が空くし。いるんですよね、たまに。やっぱりお腹が空いてもう待てないから、今日はキャンセルしてくださいって言ってくる人。そういうの困るんですよね。だからまた今度にされたら?」 と早口でまくしたてる。

直接顔を合わせて話すとにこにこ笑顔なので、多少早口でも何とも思わないのだが、顔が見えない電話口でこんなふうにまくしたてられたら、初めての人だと、なんてぶっきらぼうなおばさんなんだと驚くかもしれない。

それにしても、予約しようとしている客に 「また今度にしたらどうです?」 と言う店員も珍しいだろう。

とにかくおばさんの言いたいことは分かる。人数を把握してそれに合わせて準備しているのに、直前になってキャンセルされたら大迷惑だ。

「じゃあまた今度ね」 と半ば押し切られそうになりながら、「いえ、必ず行きますから。1時20分で大丈夫ですから」 と念を押し、何とか予約することができた。

店に到着すると 「あら~、久しぶり」 と変わらぬ笑顔。頭にはトレードマークの三角巾。客は2組おり、客が帰って間もない様子のテーブルが2つほど。どうやら私たちがこの日最後の客のようだ。テーブルの食器を片づけながら 「最初、12:30っていう希望だったのに、それよりも1時間も遅くなっちゃって・・・。お腹すいたでしょ?大丈夫?」 と。

そういえば前回来たのは3月だった。随分久しぶりだ。この店は季節の旬の食材を使った料理が食べられるので、何度来ても毎回違ったメニューが食べられるのが嬉しい。この日はどんなメニューだろうかと、わくわくしながら待つ。

やがて、いつもながら見た目にも実においしそうな料理の数々が並べられる。色とりどりで芸術的だ。



つづく

関連記事